デリバリーワーカーの権利

フードデリバリー配達員の待機時間と移動時間:報酬・労災・責任の境界線

Tags: 待機時間, 移動時間, 報酬, 労災, 事故対応, 業務委託, 保険

フードデリバリー配達員の皆様、日々の稼働お疲れ様です。

このサイトでは、フードデリバリー配達員として働く上で知っておくべき労働上の権利や、様々なトラブルへの対処法について情報を提供しております。

さて、皆様が配達業務を行っている時間には、大きく分けていくつかの種類があることをご認識でしょうか。具体的には、注文を待っている「待機時間」、注文を受けてから店舗に移動する「店舗への移動時間」、店舗で商品を受け取ってから注文者の元へ移動する「配達移動時間」です。

特に、注文が入るまでの待機時間や、店舗への移動時間は、直接的な報酬が発生しないように見えるため、「この時間は仕事ではないのだろうか」「もしこの間に事故に遭ったらどうなるのだろうか」といった疑問や不安を感じる方もいらっしゃるかもしれません。

本記事では、これらの時間、特に「待機時間」と「移動時間」が、業務委託契約という働き方においてどのように考えられるのか、そして報酬や万一の事故、責任という観点からどのような影響があるのかを解説いたします。ご自身の働き方やリスクについて理解を深める一助となれば幸いです。

待機時間とは何か?その性質と報酬の考え方

待機時間とは、配達員が配達アプリをオンラインにして、新たな注文が入るのを待っている時間を指します。自宅や特定のエリアで待機したり、移動しながら待機したりと、その形態は様々です。

フードデリバリー配達員は、多くの場合、プラットフォームとの間で業務委託契約を結んでいます。業務委託契約は、労働契約とは異なり、特定の「業務の完成」に対して報酬が支払われる形式が基本です。このため、一般的に、注文を受けていない待機時間は、具体的な業務(配達)を開始するための準備段階や待機状態とみなされ、その時間に対して直接的な報酬が発生することは通常ありません。報酬は、主として配達完了という業務の成果に対して支払われます。

ただし、待機時間中の行動には一定の自由があります。極端な例を除けば、待機場所を自由に選んだり、短時間であれば配達以外の行動をしたりすることも可能です。この「指揮命令からの解放」が、待機時間が労働時間とみなされにくい一因とも言えます。

移動時間とは何か?その性質と報酬の考え方

移動時間には、主に以下の二つがあります。

  1. 店舗への移動時間: 配達注文を受諾した後、商品を受け取るために店舗まで移動する時間です。
  2. 配達移動時間: 店舗で商品を受け取った後、注文者の指定する場所まで商品を届けるために移動する時間です。

これらの移動時間は、配達という業務を遂行するために必要な一連の行為の一部と位置づけられます。したがって、業務委託契約においては、これらの移動時間も配達業務に含まれると考えるのが一般的です。

報酬に関しては、多くのプラットフォームでは、この移動距離や時間、その他要素(地域、天候、需要など)を組み合わせて配達ごとの報酬額を算出しています。つまり、店舗への移動や配達先への移動に要する時間は、直接的な時給として支払われるわけではありませんが、配達報酬の算出根拠の一部となっていると言えます。

ただし、算出方法はプラットフォームによって異なり、透明性が低いと感じる場合もあるかもしれません。配達アプリ上で提示される配達ごとの報酬額が、これらの移動時間を含めた業務全体に対する対価であると理解しておくことが重要です。

待機時間・移動時間中の事故やトラブル発生時の責任と補償

業務時間かどうかの区別は、万一の事故やトラブルが発生した際の責任や補償にも関わってきます。

待機時間中の事故・トラブル

待機時間中に事故に遭ったり、第三者に損害を与えてしまったりした場合、その状況が「業務遂行中」とみなされるかどうかが重要なポイントとなります。

業務遂行中の事故と判断されにくい場合、プラットフォームが提供する傷害補償や賠償責任保険の適用対象外となる可能性が考えられます。ご自身で加入している自動車保険や傷害保険が主な対応手段となるでしょう。

移動時間中の事故・トラブル

注文を受けてから店舗へ向かう移動時間や、店舗から注文者へ向かう配達移動時間中の事故は、一般的に業務遂行中の事故とみなされる可能性が高いと言えます。なぜなら、これらの移動は配達という業務を遂行するために不可欠な行為であるためです。

業務遂行中の事故と判断された場合、プラットフォームが提供する傷害補償や賠償責任保険の対象となる可能性があります。ただし、補償内容には上限や条件があるため、必ず事前に確認しておく必要があります。

労災保険について

フードデリバリー配達員は、多くが業務委託契約であるため、労働基準法上の労働者には該当せず、原則として労災保険の適用はありません。これは、業務遂行中の事故であっても同様です。ただし、一部のプラットフォームでは、労災保険に相当する独自の傷害補償制度を設けている場合があります。また、個別のケースによっては、契約内容や働き方から労働者性が認められ、労災保険が適用される可能性もゼロではありませんが、これは稀なケースです。

事故に備えるためには、プラットフォームの補償内容を把握するとともに、ご自身で民間の保険(自動車保険、バイク保険、自転車保険、傷害保険、個人賠償責任保険など)に加入しておくことが極めて重要です。

万一、事故やトラブルに遭遇した場合は、冷静に状況を確認し、必要に応じて警察や関係機関、そしてプラットフォームのサポートに連絡してください。事故対応の詳細については、過去の記事「もしもの時に慌てない!フードデリバリー配達中の事故対応ガイド」でも解説しておりますので、ご参照ください。

知っておくべき注意点と対策

まとめ

フードデリバリー配達員としての待機時間や移動時間は、業務委託契約という働き方の特性上、労働契約における労働時間とは異なる考え方がなされます。特に待機時間には直接的な報酬が発生せず、移動時間は配達報酬の一部として考慮されることが多いです。

そして、これらの時間帯における事故やトラブルへの対応も、その時間が業務遂行中とみなされるかによって、プラットフォームの補償の適用可否などが変わってきます。業務委託である配達員には原則として労災保険が適用されないため、ご自身での保険加入による備えが非常に重要となります。

ご自身の働き方や権利、そして万一の際のリスクについて正確な情報を得ておくことは、安心して稼働を続けるために不可欠です。

本記事で提供した情報は一般的な内容であり、個別の状況や契約内容によって対応が異なる場合があります。もし、具体的な疑問やトラブルに直面された場合は、労働組合や弁護士などの専門家にご相談されることを検討してください。彼らは個別の状況に応じた、より具体的なアドバイスを提供してくれるでしょう。