フードデリバリー配達員のための第三者への賠償責任:備えと万一の対応
フードデリバリー配達員の皆様、日々の業務お疲れ様です。安全に業務を遂行することは何よりも重要ですが、予期せぬ事態、特に第三者の方に損害を与えてしまうといったリスクもゼロではありません。経験が浅い配達員の方ほど、万一の際にどのように対応すれば良いか分からず、不安を感じているかもしれません。
この記事では、配達中に第三者の方へ損害を与えてしまった場合の賠償責任について、どのような場合に責任が発生するのか、どのような備えが必要なのか、そして実際に発生してしまった場合の具体的な対応手順について解説いたします。
第三者への賠償責任とは
まず、「第三者への賠償責任」とは何かをご説明します。これは、ご自身の行為によって、契約相手(この場合はプラットフォームや注文者、店舗)ではない、全く別の第三者の方の身体や物に損害を与えてしまった場合に、その損害を補填する責任を指します。
フードデリバリーの業務中に起こりうる第三者への損害の例としては、以下のようなケースが考えられます。
- 人身事故:
- 自転車やバイクで通行人の方と接触し、怪我をさせてしまった。
- 配達バッグが通行人の方にぶつかり、転倒させてしまった。
- 物損事故:
- 駐輪・駐車中に自転車やバイクが倒れ、隣の自動車に傷をつけてしまった。
- 配達先の建物のエントランスやエレベーター内で、台車や配達バッグをぶつけ、設備を破損させてしまった。
- 誤って配達先とは別の敷地に立ち入った際に、庭の植木鉢を倒して割ってしまった。
これらの事例では、配達員ご自身の「不注意」(専門用語では「過失」といいます)によって損害が発生した場合に、賠償責任が発生する可能性があります。意図的に損害を与えた場合はもちろんですが、注意を払っていれば避けられたはず、という状況であれば、過失と判断されることが一般的です。
賠償責任の範囲と損害額
賠償責任が発生した場合、具体的にどのくらいの金額を支払う必要があるのでしょうか。賠償するべき損害額は、発生した損害の内容によって大きく異なります。
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人身事故の場合:
- 治療にかかった費用(治療費、入院費、薬代など)
- 休業によって得られなかった収入(休業損害)
- 精神的な苦痛に対する補償(慰謝料)
- 後遺症が残った場合の逸失利益や介護費用など
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物損事故の場合:
- 破損した物の修理費用、あるいは時価額
- 修理期間中に使用できなかったことによる損害(営業損害など)
これらの損害額は、被害の程度によって数百円から数千万円、場合によってはそれ以上の高額になる可能性もあります。特に人身事故の場合、損害額が大きくなる傾向にあります。
重要な備え:保険への加入
このような予期せぬ高額な賠償責任に備えるためにも、保険への加入は非常に重要です。業務中の第三者への賠償リスクをカバーできる保険には、主に以下のような種類があります。
- 自動車保険・バイク保険の「対人賠償責任保険」「対物賠償責任保険」: ご自身の車両(自動車やバイク)を運転中に起こした事故で、他人(第三者)を死傷させたり、他人の物に損害を与えたりした場合に保険金が支払われる保険です。多くの場合、契約時に「業務使用」として登録している必要があります。自家用車としてのみ契約している場合、業務中の事故は補償対象外となることがありますので、ご自身の保険契約内容を必ず確認してください。
- 自転車保険: 自転車で配達される場合、自転車保険への加入が有効です。最近では、業務中の事故にも対応するプランや、個人賠償責任保険が含まれているプランが増えています。自治体によっては自転車保険への加入が義務付けられている場合もあります。
- 業務委託用の保険、またはプラットフォームが提供する保険: フードデリバリー業務に特化した保険や、一部のプラットフォームが提供または斡旋している保険もあります。これらの保険は、自転車・バイク・自動車など車両の種類や、業務中の様々なリスク(対人・対物賠償、傷害、商品破損など)に合わせて設計されていることがあります。
保険に加入していることで、万一賠償責任が発生した場合でも、保険会社が被害者との示談交渉を代行したり、保険金で損害額の大部分または全額をカバーしたりすることが可能になります。ご自身の稼働スタイル(車両の種類、頻度など)に合わせて、適切な保険に加入しているか、またその補償内容が業務中のリスクをカバーできるか、必ず確認してください。
万一、第三者に損害を与えてしまった場合の対応手順
もし不幸にも配達中に第三者に損害を与えてしまった場合、冷静に、かつ適切に対応することが重要です。慌てず、以下の手順を踏むことを心がけてください。
- 安全確保と救護: まず、ご自身の安全を確保し、二次的な事故を防いでください。もし相手の方に怪我がある場合は、速やかに救護を行い、必要に応じて救急車を呼んでください。
- 警察への連絡: 人身事故、または物損事故(車両同士の事故、建物の破損など)のどちらの場合でも、必ず警察に連絡してください。たとえ軽微な事故だと思っても、警察への報告義務があることが一般的です。事故状況を正確に伝え、指示に従ってください。
- 相手方の情報の交換: 相手の方の氏名、住所、連絡先などを確認してください。また、ご自身の氏名と連絡先を相手の方に伝えてください。
- 事故状況の記録: 事故が発生した場所、日時、状況(何が、どのように起こったか)、相手の方の怪我や物の損害状況などを可能な限り詳細に記録しておいてください。可能であれば、スマートフォンなどで現場の写真や動画を撮影しておくことも有効です。目撃者がいる場合は、その方の連絡先を聞いておくと良いでしょう。
- プラットフォームへの連絡: 稼働中の事故であれば、利用しているプラットフォームのサポートにも連絡し、指示を仰いでください。プラットフォームによっては、事故対応に関するガイドラインや窓口を設けている場合があります。
- 保険会社への連絡: 加入している保険会社に速やかに連絡し、事故が発生した旨を伝えてください。保険会社は今後の対応についてアドバイスを提供し、契約内容に基づき対応を進めます。
- 安易な示談は避ける: その場で相手の方と示談交渉をすることは、原則として避けてください。損害額が確定していない状況で安易に示談に応じてしまうと、後々追加の請求が発生したり、保険が適用できなくなったりする可能性があります。対応は保険会社に任せるか、弁護士などの専門家を介して行うことが賢明です。
まとめ
フードデリバリー配達中の第三者への賠償責任は、誰にでも起こりうるリスクです。しかし、このリスクを正しく理解し、適切な保険に加入しておくことで、万一の際の経済的・精神的な負担を大きく軽減することができます。
ご自身の保険契約内容を定期的に確認し、業務中のリスクをカバーできる備えがあるか確認してください。そして、もしもの際は慌てずに、安全確保、警察・プラットフォーム・保険会社への連絡といった適切な手順を踏むことが重要です。
提供された情報は一般的な内容であり、個別の状況によって対応が異なる場合があります。ご自身の状況や契約内容について不安がある場合は、加入している保険会社、弁護士、または労働組合などの専門家にご相談されることを強く推奨いたします。日々の業務が安全に行えるよう、この記事が皆様の一助となれば幸いです。