フードデリバリー配達員が知っておくべき「偽装請負」のリスク
フードデリバリー配達員としてご活躍の皆様、日々の稼働お疲れ様です。
多くのフードデリバリー配達員は、プラットフォーム運営会社と「業務委託契約」を結び、個人事業主として働いていらっしゃることと存じます。業務委託契約は、雇用契約とは異なり、働く時間や場所、方法に比較的自由度がある点が特徴です。しかし、その一方で、労働基準法などの労働関係法令の保護が直接適用されないという側面も持ち合わせています。
こうした契約形態において、形式上は業務委託であっても、その実態が雇用契約と変わらない、あるいは非常に近い状態になっている場合があり、これは「偽装請負」と呼ばれる問題を引き起こす可能性があります。本記事では、フードデリバリー配達員を取り巻く偽装請負のリスクについて、その概要と注意すべき点、そしてもしもの場合の対処法について解説いたします。
業務委託契約と雇用契約の基本的な違い
まず、多くの配達員の方が結んでいる業務委託契約と、一般的な会社員などが結ぶ雇用契約の違いを改めて確認します。
-
雇用契約
- 会社(使用者)と労働者との間で結ばれる契約です。
- 労働者は会社の指揮命令下に入り、定められた時間や場所で働き、業務遂行方法についても会社の指示に従う義務があります。
- 労働基準法などの労働関係法令が適用され、労働時間、休日、休暇、最低賃金、残業代、解雇規制など、手厚い保護があります。労災保険や社会保険の適用対象となります。
-
業務委託契約
- 対等の立場である事業者同士が結ぶ契約です。
- 特定の業務の完成や、特定の成果物を納品することに対して報酬が支払われます。
- 業務の遂行方法や働く時間・場所については、受託者(配達員)の裁量が広く認められるのが原則です。
- 労働基準法などの労働関係法令は原則として適用されません。労災保険や社会保険も、雇用契約を結んでいる労働者とは扱いが異なります(労災保険には特別加入制度があります)。
詳細は「フードデリバリー配達員が知っておくべき業務委託契約の基礎知識」や「業務委託?雇用?フードデリバリー配達員の働き方を分ける「指揮命令関係」とは」といった関連の記事もご参照ください。重要なのは、業務委託契約においては、プラットフォームからの「指揮命令」が限定的であるべき、ということです。
「偽装請負」とは何か
偽装請負とは、契約の形式上は請負契約や業務委託契約としているにもかかわらず、その実態としては、発注者(この場合はプラットフォーム運営会社)が労働者に対して直接的な指揮命令を行い、労働者がその指揮命令下で働いている状態を指します。つまり、形式だけ業務委託で、中身は雇用契約と同じ、あるいは非常に近い状況になっている状態です。
労働基準法では、実際の働き方の実態に基づいて労働者であるかどうかが判断されることがあります。たとえ契約書の名称が「業務委託契約」であっても、実態が雇用契約に限りなく近ければ、その契約は労働基準法上の「労働契約」とみなされ、配達員が労働者として扱われるべきである、と判断される可能性があるのです。
フードデリバリー配達における偽装請負の兆候
フードデリバリーの働き方において、どのような状況が偽装請負の兆候となりうるのでしょうか。以下のような点が、形式的な業務委託契約とは矛盾し、雇用に近い実態を示唆する可能性のある要素として挙げられます。
- 稼働時間や場所に対する強い拘束、指示:
- 特定の時間帯やエリアでの待機が事実上強制される、または強く推奨され、それに応じないと著しく不利になる。
- 具体的な休憩時間やその取得方法について、プラットフォームからの指定や管理がある。
- 稼働できる曜日や時間帯を、プラットフォーム側が一方的に指定・制限する。
- 業務遂行方法への過度な指示・介入:
- 配達ルートについて、アプリの指示以外の選択肢が事実上認められず、常に指定ルートを通るよう強く求められる。
- 配達手順や顧客対応について、詳細かつ厳格なマニュアルがあり、それに従わないとペナルティがあるなど、個人の裁量や工夫の余地がほとんどない。
- 配達時の服装や身だしなみについて、特定のユニフォーム着用義務など、業務委託としては異例に細かい指定がある。
- 報酬体系が労働時間・稼働時間に基づいている:
- 配達件数や距離に関わらず、稼働した時間に対して固定、あるいはそれに近い報酬が支払われる仕組みになっている(時間給的な性質が強い)。
- 使用する道具や車両等に関する取り決め:
- 配達に使用する車両やスマートフォン、その他の備品について、プラットフォーム側から無償で提供され、その使用を強く指定される。
- 他の配達員に業務を代替させたり、応援を頼んだりすることが認められない。
- 契約書の内容と実態の乖離:
- 業務委託契約書には広い裁量権が記載されているにも関わらず、実際の稼働現場ではプラットフォームからの指揮命令を受けている。
もちろん、プラットフォームがサービス品質を保つために一定のガイドラインや推奨事項を示すことはありますが、それが業務委託契約における「指揮命令」の域を超えているかどうかが判断のポイントとなります。
偽装請負と判断された場合のリスク
もし、ご自身の働き方の実態が偽装請負であると判断された場合、配達員にとってどのような影響があるのでしょうか。
最も大きな問題は、形式的には業務委託であるため、労働者として当然受けられるはずの保護(労働基準法、労働組合法などに基づく権利)が受けられないリスクがあることです。具体的には、以下のような点が挙げられます。
- 労働基準法上の権利が適用されないリスク:
- 最低賃金が保障されない。
- 長時間労働に対する割増賃金(残業代)が支払われない。
- 年次有給休暇が付与されない。
- 不当な理由での一方的な契約解除(労働法上の解雇規制が適用されない)。
- 労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されない。
- 労災保険・社会保険の適用に関する問題:
- 原則として労災保険の適用対象とならない(特別加入制度の利用が必要)。
- 健康保険や厚生年金保険といった社会保険に加入できない。
このように、偽装請負の状態にあると、労働者としての弱い立場に置かれてしまい、保護されるべき権利が保障されないという深刻な問題に直面する可能性があります。
偽装請負の可能性を感じたらどうすれば良いか
ご自身の働き方について、「もしかして偽装請負かもしれない」と疑問や不安を感じた場合、一人で抱え込まず、適切な行動をとることが重要です。
- ご自身の状況を記録する:
- プラットフォームからの具体的な指示の内容や頻度を記録してください。
- 稼働時間、待機時間、休憩時間について、プラットフォームからの制約や管理があった場合は、その状況を記録してください。
- 業務の遂行方法について、どれくらいの裁量があったか、あるいはどれくらい細かく指示されたかを記録してください。
- 報酬がどのように計算されているか、契約書の内容と実態が異なっている点などを具体的に記録しておくと、後々相談する際に役立ちます。
- プラットフォームに確認・問い合わせる:
- まずはプラットフォームに対し、ご自身の働き方について疑問に感じている点を確認してみてください。ただし、問い合わせの仕方には注意が必要です。ご自身の権利について強く主張しすぎると、関係性が悪化する可能性もゼロではありません。疑問点の確認という丁寧な姿勢で臨むことをお勧めします。
- 専門機関や労働組合に相談する:
- ご自身の状況が偽装請負に当たるかどうか、またどのように対応すれば良いかについては、労働問題の専門家や相談機関に相談するのが最も確実な方法です。
- 労働基準監督署: 労働基準法などの法令違反について相談できます。匿名での相談も可能です。
- 弁護士: 個別の状況に応じた法的なアドバイスや対応を依頼できます。
- 労働組合: フードデリバリー配達員向けの労働組合なども存在します。団体交渉を通じて労働条件の改善を求めていく活動を行っている場合があります。既存の記事「フードデリバリー配達員が知っておくべき労働組合の役割と活用方法」も参考になるかと存じます。
これらの機関に相談する際は、事前に記録したご自身の状況を具体的に伝えることが、適切なアドバイスを得る上で非常に重要です。
まとめ
フードデリバリー配達員としての業務委託契約は、自由な働き方を可能にする一方で、雇用契約とは異なる法的性質を持ちます。形式は業務委託であっても、実態が雇用に近い「偽装請負」の状態にある場合、労働基準法による保護が受けられないなど、配達員にとって様々な不利益が生じるリスクがあります。
ご自身の働き方について、プラットフォームからの指揮命令が過度に強く、業務委託としての自由度が著しく低いと感じる場合は、偽装請負の可能性を疑ってみる必要があるかもしれません。
もし偽装請負の可能性について不安を感じたり、疑問を持たれたりした場合は、一人で悩まず、まずはご自身の状況を記録し、必要に応じて労働基準監督署や弁護士、労働組合などの専門機関に相談されることをお勧めいたします。ご自身の権利を守るために、正しい知識を持ち、適切な行動をとることが大切です。
本記事で提供する情報は一般的なものであり、個別の状況によっては判断や対処法が異なる場合があります。ご自身の状況についてより詳しく知りたい場合や、具体的な問題に直面している場合は、必ず専門家にご相談ください。